2、厠(かわや)
能登空港から大崎庄右ェ門邸まで一気に来てしまったので早速ではあるがトイレを借りることにした。
が、しかしそこでもまた衝撃的な光景を目にする事になろうとは思いもしなかったのであった。小さな丸い明かり取りの小窓に施された竹細工。決して嫌みな感じではなく「さりげなく上品に」外の光を映し出しているのである。
恐る恐るそのトイレのドアを明けるとそこには壁から天井、床に至るまですべてが漆で仕上げられているのであった。
女将に尋ねると、そのトイレには輪島塗で使われるほぼ全ての技法を使ったとの答えが返ってきた。
しかし、私たちの想像する絢爛豪華な輪島塗とはどうも違うのである。
しっとりと上質な「拭き漆」技法を中心に様々な輪島塗の技法を施してあると言う事であった。
ご主人曰く「塗師屋とは漆の提案者であり、演出者でもあるのだから、自宅をモデルがわりに作り込むのは当然でしょ?」とおっしゃる。成る程それもそうだと納得。
それじゃあ何故トイレ本体は塗らないんですか?と笑いながら女将さんに訪ねると「私たち塗師屋は自分達の履く下駄ですら漆は塗れないと昔から教えられてきました。私たちの生活を支えて下さっている漆を踏みつけたり、トイレの便座にして座るなんて言語道断なんですよ」と言われてしまった。
ここ大崎庄右ェ門では漆が何よりも大切なのである