13、たかがお椀。されどお椀。

なぜか足音を立てる事すらままならなくなりそっと階段を降り下地場に戻って大きなため息をつく私にご主人が「これを使ってみなさい」と汁碗とお箸を手渡してくれた。
大事に使えば何十年か後にはこんな風に変わるからと言って見せてくれた汁碗は何ともいえない深い艶と深い色に包まれていた。
そのお椀はお客様に塗り直しを依頼されて親方(ご主人)が預かってきた物らしいのだが、納品して既に20年を経過したシロモノだったのだ。

この使い捨て文化が氾濫している時代にあって木地に、漆に、製造工程に徹底的にこだわり、良い物を大切にリフォームしながら使い続けようと、まさに環境に優しい漆文化を声高に提案する姿に何か堅い物で頭を殴られたような激しい衝撃を受けながら大崎庄右ェ門を後にした。

私たちの日本にはまだまだこんな美しい文化が残っているのだ。
美しき国とは美しき文化なのだと改めて日本文化の素晴らしさを知った貴重な体験であった。