12、上塗り部屋

保管庫の壮観な眺めを横目に見ながら階段を登ると、いよいよ上塗り部屋だ。
上塗り部屋は下地部屋の丁度真上に位置するのだが、やはりここも燦々と光が差し込み、神々しい風景が目に飛び込んでくる。

その中を上塗り師が忙しそうに歩き回っている。上塗りの準備をしているそうで、今なら中を見せて貰えると言うことなのでお邪魔させていただいた。

使い込まれた作業台(まないたと呼ぶらしい)や綺麗に手入れされた刷毛、四半世紀もの時を経た年代物の漆、漆の濾し機(うまと呼んでいました)、くだと呼ばれる器ホルダーのような物まで整然と整頓して置いてある。

上塗り作業が始まると親方ですらこの上塗り部屋には入れなくなるそうです。空気中の埃を霧吹きで落とし、少しでも綺麗な器に仕上がるよう上塗り師も全身全霊を込め塗り始めるので何人たりとも近づかせない聖域になるそうです。

私が最初に感じた神々しさは、そんな空気が準備段階からすでに充満し始めていたからなんだと納得しました。

先々代の頃からずっと変わらず使い込まれてきたというそのスリコギは風格ある黒い底艶を放ち、大崎庄右ェ門の歴史の長さを物語るに十分事足りる代物であった。