11、いよいよ蔵の中へ

下地場を後にし、いよいよ上塗り場に案内してもらう事になった。
上塗り場は土蔵の中にあるのが輪島では一般的だったのだそうだ。

土蔵の中は年中室温、湿度が安定しており上塗りに最適な条件を作りやすいのがその理由らしい。

その土蔵の一階が漆器の倉庫になっている。その倉庫の中には三段からなる入輪差(入輪を差し置く棚)に入輪が整然と並んでいる。

少しシュールなその光景にこれは何ですか?と尋ねたところ、お客様からの注文依頼で出荷されるまで寝かせておく保管庫だと言う。

使わなきゃ意味がないとおっしゃっていたではないですか?と思わず聞けば、「完成したばかりの塗り物の肌は生まれたての赤ちゃんの肌と同じように凄く柔肌なんですよ。だからこの保管庫でしっかりと寝かせてからお客様の元へ届けるのですよ」と答えてくれた。

ただでさえ時間と手間暇がかかっている漆の器なのに完成してから更に寝かすなんて。と呆気にとられてしまった。

こんな漆の器を普通の工業製品と比較すること自体がナンセンスだなと私は感じていた。